何気ない一言から生まれた不朽の名作「リバースウィーブ」
今や「キング・オブ・スウェットシャツ」と称され、誰もが知るブランド〈チャンピオン〉。
1919年にサイモン・フェインブルームが創業した「ニッカーボッカーニッティングカンパニー」をそのルーツとするが、その翌年にサイモンが亡くなったことから息子であるエイブとウィリアムのフェインブルーム兄弟が事業を継承、「チャンピオン・ニッティング・ミルズ社」が誕生する。Tシャツやソックス、スウェットシャツの原型となるウールの下着などを製造、販売していた。
1920年代、ミリタリーアカデミーの訓練用に同社のウール製ウェアが採用され、その品質の良さから瞬く間に評判を集めるのだが、ウールは保温性や伸縮性に優れる一方で、洗濯にコストと技術を要する上に高価であった。そこでフェインブルーム兄弟は安価でケアがしやすいコットンに目を付ける。持ち前のニット技術を応用し、軽くて快適で安価なコットン製アスレチックウェアを開発。これがスウェットシャツの始まりであり、その後10年の間に多くのミリタリーアカデミーや大学を顧客として全米に浸透していったのである。
そして1928年。のちに不朽の名作「リバースウィーブ」を生み出すサム・フリードランドが入社。1934年、出張先の大学関係者から「洗うと丈が縮んでしまい、ボディフィットが悪くなる」というクレームを受けた彼は、その人物が漏らした「生地の縦と横を逆にすれば丈が縮まなくなるのでは?」という何気ない一言に着想を得て、スウェットシャツを裁断。縦と横の織りを変更することにより縮みが最小限に抑えられることを確認する。「リバースウィーブ」の原型が誕生した瞬間である。
まさにコロンブスの卵のような画期的なアイデアから生まれたこの製法は4年後の1938年に特許取得、その後も改良を重ね、1952年には2度目の特許取得。初めてチャンピオンのカタログに「リバースウィーブ」を冠する商品が掲載されるまで開発スタートから実に18年の歳月を要することとなった。それ以降、「リバースウィーブ」はチャンピオンを象徴する特別なアイテムとして、その地位を固めていくのである。
身頃の編み生地を横方向に使用する製法「リバースウィーブ」に、横方向の縮みを防止するために採用された「エクスパンションガゼット」と呼ばれるリブ編み生地を両脇にあしらった仕様は今もなお受け継がれており、この様式は1952年頃には採用されていたということが不朽の名作と呼ばれる所以である。
なお、「REVERSE WEAVE(逆編み)」とは編み生地を縦と横で逆にするということから名付けられた製法のことであるが、今ではその製法を使った製品のシリーズ名となっており、この製法と両脇にガゼットをあしらったスウェットシャツの様式をオマージュしたアイテムが数多くのブランドからリリースされていることからも、このスウェットシャツが不変のスタンダードであることがわかる。